「私たちは悔しいんです。」
この言葉を掲げるきっかけとなった東日本大震災から11年となりました。私たち桜ライン311の最初の植樹地である陸前高田市浄土寺からの今日の景色です。
2011年8月、東日本大震災は未曾有でもなく想定外でもなく、おおよそ1,000年に一度の頻度でこの地域を襲う周期的な災害だという報道がありました。その報道を見た時に、私たちの胸に込み上げてきたものは「悔しさ」でした。もし18m近い津波がまちを襲う可能性があると分かっていたのなら、これだけの命が失われることはなかったのではないか。そして次の震災はいつか必ずやってきます。その時にこの地域に住む人々の命だけは守りたい。そうしなければまた同じ「悲しみ」が繰り返されてしまう。
そのために津波の最大到達ラインに桜を植え、後世に避難の目標として伝え残すことは出来ないだろうか。
こうして私たちの桜ライン311は2011年10月に始まりました。その総延長は170km。陸前高田市内の最大津波到達地点に10m間隔で桜の木を植え、17,000本の桜並木を後世に伝えることを目標にしました。2011年11月に植樹を開始、これまでに地域の住民の皆さまに加えて、日本全国の皆さまに共感とご尽力をいただいてきました。陸前高田市内380箇所に1,948本、植樹事業参加者は累計7,127名となりました。皆さまには感謝しかありません。本当にありがとうございます。
あの日から11年、復興事業はいよいよ仕上げの段階となりました。昨年5月には市役所も新庁舎となり、博物館の展示とオープンのみとなります。しかし一方で中心市街地は今も荒凉とした更地が目立ちます。国の定める復興事業の終わりではなく、街に賑わいが戻ることが復興であるならまだまだ遠い道のりです。土地利活用促進バンクなどを中心に陸前高田市としても取り組みが続いています。
一方で復興工事により震災の直接的な痕跡はほぼ全て姿を消しました。見えなくなることで思い出すことも減り、感情に整理がつけられる方がいるのも事実です。しかし同時に「無かったこと」にはしてはいけないと多くの方が思っています。そうなってしまったら、また命が失われることが繰り返されてしまいます。あの悲しみだけは繰り返してはいけないことです。
私たちの原動力は「悔しさ」です。それが変わることはありません。でも今の私たちを支えているのはそれだけではありません。植樹の許可を頂き、共に植え育て、語り継いでいく地域の皆さまがいます。共感をして頂き、寄附をし、植樹に参加し、共に歩んでくださる全国の皆さまがいます。東日本大震災を忘れてはいけない、無かったことにはしてはいけない。それは私たちだけではなく、すべての人の願いなのだとも強く感じます。それは私たちの大きな原動力です。本当に心強く思っています。
桜ライン311はこの街の未来の命を救うために始まりました。今はそれに重ねて、日本全国の災害で失われる命を少しでも減らしたいとも思っています。日本全国で災害は繰り返し発生し、南海トラフ地震をはじめとして大規模な災害が予想されています。東日本大震災の教訓を私たちだけのものにせず、より多くの方にお伝えすることで、災害による犠牲者を一人でも減らすことはできないか?その思いで日本全国の皆さまとの植樹会を続けています。残念ながら新型コロナウィルスの影響で、植樹会も通常実施は難しくなり、感染状況に対応しながらの実施が続いています。今春については岩手県内居住者のみの参加とさせていただきました。参加希望の皆さまのご理解に心から御礼申し上げます。今春で累計2,000本を超える見込みでしたが、残念ながら今秋に持ち越しとなりました。
東日本大震災から11年。どんな状況になっても、私たちの事業はこれからも連綿と続いていきます。伝承も防災減災も一時的な取り組みでは残っていきません。設立当初から関わってくださる方も、これから関わりたいと思ってくださる方も同じように関われる組織であり続けたいと思っています。
今も東日本大震災は多くの皆さまの中で続いていて、その教訓を語り継ぐ重要性はますます高まっていると感じています。私たちはこの桜の下で笑うことはできないかもしれません。でも次の世代の人々にはその下で笑顔になってもらいたいと願っています。陸前高田の春を彩る地域の財産としても育てていきたい。
桜の花が春に固い蕾を開くように、減災の意識が多くの人に根を張り、花を咲かせる日が来ることを信じて歩みを続けてまいります。
東日本大震災で亡くなられた全ての方のご冥福をお祈りいたします。
認定特定非営利活動法人 桜ライン311
代表理事 岡本 翔馬
理事・スタッフ一同