「私たちは悔しいんです。」
この言葉を掲げるきっかけとなった東日本大震災から10年となりました。私たち桜ライン311の最初の植樹地である陸前高田市の浄土寺の今日の様子です。
2011年8月、東日本大震災は未曾有でもなく想定外でもなく、おおよそ1,000年に一度の頻度でこの地域を襲う周期的な災害だという報道がありました。その報道を見た時に、私たちの胸に込み上げてきたものは「悔しさ」でした。もし18m近い津波がまちを襲う可能性があると分かっていたのなら、これだけの命が失われることはなかったのではないか。
次の震災は必ずやってきます。その時にこの地域に住む人々の命だけは守りたい。そのために津波の最大到達地点に桜を植え、後世に避難の目標として伝え残していきたい。
こうして私たちの桜ライン311は2011年10月に始まりました。その総延長は170km。陸前高田市内の最大津波到達地点に10m間隔で桜の木を植え、17,000本の桜並木を後世に伝えることを目標にしました。2011年11月に植樹を開始、これまでに地域の住民の皆さまに加えて、日本全国の皆さまに共感とご尽力を頂いてきました。陸前高田市内354箇所に1,800本、植樹事業参加者は累計6,594名となりました。皆さまには感謝しかありません。本当にありがとうございます。
あの日から10年、復興事業はいよいよ最後の段階となりました。ほとんどの公共施設は完成し、残すところは陸前高田市役所、博物館のみとなります。また今年の夏には高田松原海水浴場のオープン予定となっています。しかし一方で中心市街地は今も荒凉とした更地が目立ちます。昨年12月時点でかさ上げした民有地の6割以上が未利用のままというデータもあります。国の定める復興事業の終わりではなく、街に賑わいが戻ることが復興であるならまだ遠い道のりです。
復興工事が進むなか震災の直接的な痕跡は姿を消しました。見えなくなることで思い出すことも減り、感情に整理がつけられる方もいるもの事実です。しかし同時に「無かったこと」にはしてはいけないと多くの方が思っています。そうなってしまったら、また命が失われることが繰り返されてしまいます。あの悲しみだけは繰り返してはいけないことです。
私たちの原動力は「悔しさ」です。それが変わることはありません。でも今の私たちを支えているのはそれだけではありません。植樹の許可を頂き、共に植え育て、語り継いでいく地域の皆さまがいます。共感をして頂き、寄附をし、植樹に参加し、共に歩んでくださる全国の皆さまがいます。東日本大震災を忘れてはいけない、無かったことにはしてはいけない。それは私たちだけではなく、すべての人の願いなのだとも強く感じます。
桜ライン311はこの街の未来の命を救うために始まりました。今はそれに重ね、日本全国の災害で失われる命を少しでも減らしたいとも思っています。日本全国で災害は繰り返し発生し、南海トラフ地震をはじめとして大規模な災害が予想されています。東日本大震災の教訓を私たちだけのものにせず、より多くの方にお伝えすることで、災害による犠牲者を一人でも減らすことはできないか?その思いで日本全国の皆さまとの植樹会を続けています。昨年春からは残念ながら新型コロナウィルスの影響で、植樹会はほぼ全てが中止または一部実施となってしまいました。今年の春については保健所の指導のもと、感染症対策を行った上で一年半ぶりに全国の皆さまと植樹を進めさせていただいております。
東日本大震災から10年。たしかに大きな一つの節目となりますが、ただの通過点です。これからも私たちの事業は連綿と続いていきます。伝承は一時的な取り組みでは残っていきません。今も東日本大震災は多くの皆さまの中で続いていて、その教訓を語り継ぐ重要性はますます高まっていると感じています。私たちはこの桜の下で笑うことはできないかもしれません。でも次の世代の人々にはその下で笑顔になってもらいたいと願っています。陸前高田の春を彩る地域の財産としても育てていきたい。
桜の花が春に固い蕾を開くように、減災の意識が多くの人に根を張り、花を咲かせる日が来ることを信じて歩みを続けてまいります。
東日本大震災で亡くなられた全ての方のご冥福をお祈りいたします。
認定特定非営利活動法人 桜ライン311
代表理事 岡本 翔馬
理事・スタッフ一同